フィオンが妖精界を去る際にお礼にと「妖精はコインなどが好きだったか?」と言いながらコインを渡してくれた時。
「コインより、これがいい」
 そうお願いして、もらった騎士服のボタン。
 私の宝物だ。
 毎日一緒に寝ている。荷物はそれだけ。
 月の妖精に何か試練を言い渡された時は、その時に用意すればいいのだ。
 湖までは思った以上に遠かった。私たちのような小さな羽の妖精には山を3つ越えるのは大変な大仕事だった。
 やっとの思いで辿り着いた時には、満月はもうすぐだった。すぐに出発して良かったと思いながら、満月の夜まで湖のそばを探検して過ごす。
 月の妖精が現れるという湖はとても美しかった。昼も夜も空からの光が反射しキラキラと輝く。私たちの綺麗な羽に劣らない美しい羽の様々な妖精がその煌めく湖の上を飛びまわり、湖から光の飛沫が上がっているようだった。
 こんなに素敵な場所なら強い魔力を持った妖精族がいてもおかしくはないなと思う。
 周りの森も安全で美味しい蜜の花もあるし、素敵な花輪が作れるお花畑もある。花輪を作ったら、フィオンに持っていってあげよう。あのふわふわの濃い茶色の髪に似合うはず。
 そんな楽しい妄想ばかりしながら満月に備える。