床までガラス張りになっている窓からはバルコニーが続いていて、そこにあらかじめ植えられている観葉植物が、眺望に優しい緑を添えている。

「越してきてから使っていなかった部屋だから綺麗だろう? ベッドや机など必要最低限の家具は事前に用意させてもらったよ。あとは好きなように使ってくれてかまわない」
「はい、なにからなにまでご用意していただいて、本当にありがとうございます」
「引っ越し業者はこれから来るんだろう? 荷解きを手伝うよ」
「あ、いえ大丈夫です。私の荷物はこれだけなんで」

と、持ってきたキャリーケースを指さすと、聡一朗さんは目を丸くした。

「これしかないのか?」
「家電は聡一朗さんがずっと良い物をお持ちなので処分してしまいました。あとは身の回りのものなんですけれど、私そんなのに多く持っていなかったので、このケースひとつですんでしまいました」
「驚いたな。女性はもっと荷物が多いものだと思っていたから。ファッション関連とか大量にあるものだろう?」
「あ、あの私、それほどそういうことに興味が無くて……仕事ではユニフォームが支給されるし、両親が残してくれたお金も堅実に使いたいと思っていたので……」

……なんだか恥ずかしくなってきた。