タクシーは高層マンションの前で止まった。

この最上階が、聡一朗さんの自宅だという。
今日から私と聡一朗さんが同居する場所だ。

いわゆるタワーマンションというやつよね……住むにはものすごいお金がかかるという……。

大学教授さんって、こんなにお金持ちなんだ……。

出す本はすべてベストセラーだし、メディアにも引っ張りだこだし、多くの民間企業に協力もしているって聞くし、たくさんお金を稼いでいるんだろうな。

そんな人のサポートなんて、私なんかができるんだろうか……。

『先生とあなたとじゃ、住む世界が違うのよ』

不意に紗英子さんに言われた言葉が浮かんで、胸がチクンとなった。

ああもう考えてもしょうがない。
聡一朗さんが私をと認めてくれたのだ。
私だって聡一朗さんの役に立てるのならいいと、腹をくくったじゃないか。

それに、婚姻届は出してしまっていた。

もう私は、藤沢美良。

聡一朗さんの妻なのだから。