この期に及んでまで、紗英子君はスマホを出そうとしなかった。

 嫌な直感は、確信に変わっていた。

 俺は冷ややかに言い捨てた。

「紗英子君、俺が世話になっているのは天田先生で、娘の君ではない。君の好意に気付かない俺ではない。先生への建前上、無下にするのは控えていたが、今はっきり言おう。俺に君は不要だ」
「そんな先生、私は……!」
「俺が必要なのは妻で、君のような女ではない。今度また妻を卑下したり、貶めようとするのなら、絶対に容赦はしない」
「……」
「妻の居場所を教えろ」