「もう時間ですのよ? 参列の方々を待たせるのですか?」
「すまない、ほんの少しだから。どいてくれないか」
「いいえ、今日は父に関係のある方も多く来ているのです。父が目を掛けているあなたの都合で遅れたとあっては」
「天田先生には、あとでよく詫びておくよ」

 と、強引に押し退けようとすると、彼女は俺の腕をつかんできて。

「父の顔に泥を塗るつもりですか? あなたのキャリアがどうなっても!?」

 つんざくような声で叫ぶ。

 必死のその形相に、俺に嫌な直観が閃いた。

 まさか――いや、この女なら、やりかねない。

「紗英子くん、俺のスマホをくれないか」
「先生……!」
「早くよこせ!」

 思わず声を荒げた自分に驚いた。