美良は本当にどうしたのだろう。
 俺に愛想を尽かしたとしても、今日のような重要な場をドタキャンするような無責任な女性ではないはずだ。

 もしや、彼女の身になにかあったのではないだろうか。

 スマホを見たい。
 新しいメッセージが来ているかもしれない。

 だが、紗英子君に預けていて自由に使えずにいた。
 彼女はここ五分前から、最終確認に行ってくると言って、姿が見えない。

 じりじりと苛立ちが芽生え始めた時、紗英子君がようやく戻って来た。

「ちょっとスマホをみせてくれないか、妻から連絡が来ているかもしれない」

 悠然とした様子で戻ってきた紗英子君は、せっつく俺に目を丸くして、

「まぁ先生、そんなお時間はありませんよ。さぁ早く、大勢の方が先生をお待ちですよ」

 と、俺の手を取って、入口へ誘導しようとする。