「新刊が入ってる……!」

 2日経って、僕の家の書庫にやってきたアイナが声を弾ませる。
 書庫に来たアイナは最初にこの棚を見る。
 アイナが新刊コーナーと呼ぶこれは、僕が用意したものだ。
 新しく入った本を一か所にまとめておけばアイナが喜ぶと思って設置してみたら、やっぱり喜んでくれた。
 自分でもいい仕事をしたと思っている。



「よさそうなのはあったかい?」

 本棚の前に立つアイナに声をかけてみる。
 手に持っていた本を見せてくれたから、とりあえず受け取って表紙と目次を確認した。
 次の本も見せてくれた。受け取った。次も、次も……。
 普通に持つのか難しくなってきたから、縦に重ねて持った。
 アイナは更にそこへ本を積み上げていく。

「アイナ……。一度どこかに置いてきていいかな……?」

 もう限界だと思ってそう言えば、アイナは心底申し訳なさそうに「ごめんなさい……」と口にした。
 いや、別にいいんだ……。
 王族の一員で、シュナイフォード家の跡継ぎ。そんな僕にこんなことをするのは君ぐらい。
 だから、この扱いがちょっと楽しいぐらいだよ。
 ……それでも、重いものは重いんだけどね。



 書庫の隣には読書用の部屋が用意されていて、1時間ごとに音が鳴る時計も置いてある。
 すっかり聞きなれた音が耳に入り、時計へ視線をやる。
 ……16時だ。
 そろそろ帰り支度を始めたほうがいいだろう。
 支度をしなくちゃいけない本人は、時計の音なんて聞こえていないようで。本を見たまま顔をあげない。
 邪魔をしたくないし、許されるならあと何時間かここにいて欲しいけど……。まだ12歳の僕らじゃ、そうもいかない。
 
 アイナ、アイナ、と何度か呼び掛けてみても、彼女の視線は本に固定されたままだ。
 仕方がないから、名前を呼びながらアイナの顔の近くでひらひらと手を動かす。
 あ、気が付いた。

 2時間近く経ったと伝えれば、彼女は集中してるとあっという間だね、なんて言って笑った。
 素晴らしい集中力だ。これも1種の才能なんだろう。
 ただ、何かあったら逃げ遅れそうで心配になる。
 それに、婚約者の僕を放置して本に夢中になっていたから、ちょっと寂しかった。
 まあ、そうなるとわかっていて彼女を書庫に招待しているんだ。
 いつかは本に勝てると信じて頑張ろう。