理緒は、亮二の帰宅がどんなに遅くても
必ず起きて待っていた。

そして、
すぐお味噌をあたためて、
ハンバーグや肉じゃがやロールキャベツや、天ぷらや、トンカツなど、毎日バリエーション豊かな夕飯が作られていた。

亮二が、遅くなるから、先に寝ててもいいし、
先に食べてもいいと言っても、
理緒は必ず起きていて、亮二の帰宅を待っていた。

そして理緒は必ず
亮二と一緒に夕飯を食べ
同じ時刻に寝た。

会話はそれほどなかったが
理緒は微笑む事が多くなった。

秋には大きな学会が京都であり
理緒も旅行がてら、連れて行くことにした。

理緒は慣れない遠出に
おどおどしていたが
学会が終わり、京都を散策すると

「修学旅行で見た」と清水寺を指さした。

そうか、こないだまで
学生だったもんなー
なんだか亮二は不思議な気分になった。

あとは、定番の抹茶アイスと
あんみつも二人で食べた。

その二ヶ月後には福岡で学会があり
理緒も連れて行った。

その時は有給を二日使った。

長崎の夜景を理緒に見せたかったからだ。

理緒は九州に行ったことがなく
少し、旅行でもしようと思った。

とんこつラーメンを食べきれず
苦戦している理緒に

「半分たべるよ」

と亮二は理緒から
ラーメンを取り上げた。

「ありがとうございます…」

理緒はホッとしたようだ。

学会が終わり、福岡から新幹線で長崎に移動した。
目当ては、有名な建築士が建てた5つ星のホテルを予約したので、理緒にも優雅なホテルを堪能してもらおうと思った。

一応、医者の娘で、そこそこのところに行かないと、今後、理緒が友人が出来たとき、気後れしてしまうだろうと亮二は思った。

何より、理緒の雰囲気は次第に洗練され、そのような場所に行くのにふさわしい姿になったと感じた。

ホテルに到着し、理緒の目は輝いた。
「わぁ…キレイ…」
外には巨大なプールとベンチがあり
隣には美しい庭園もある。

部屋はブルガリのアメニティーで統一され
お風呂はジャグジーで、そこから夜景が見える。

「キレイなホテル…」

理緒は、まだおどおどしている。

「夕飯は鉄板焼のコースを予約したよ
食べれそうかい?」

「鉄板焼…?」

理緒はよく分からなかったらしい。

「あは、行けば分かるよ」

ホテル内の鉄板焼の店は
180度展望のガラス張りで
長崎の港と夜景が見える。

店に入ると理緒は、
「どうしよう…」と
もじもじしていた。

鉄板焼がステーキのコース料理だと
理緒は知らなかったようだ。

シェフが慣れた手付きで
野菜を焼き、伊勢海老、
アワビなどを専用のナイフとフォークを使って、
鮮やかに手際よく次々に調理する。

最後のステーキは
シェフがナイフとフォークを
クルクル回して空中に投げて
後ろの手でキャッチする
パフォーマンスを見せてくれ
理緒は、

「わー、すごい!」

とサーカスでも見てるかのように喜んだ。

シェフも、若くて可愛らしい女性に
もてはやされて、まんざらでもない様子だ。

理緒がもてはやすので、シェフは、さらにナイフとフォークのパフォーマンスを見せてくれた。

理緒は「すごいすごい!」と
何から何まで驚いて、楽しそうにしていた。

ただ、全て食べきることは出来ず
半分は亮二が食べた。

それでも理緒の目は
初めて見るものばかりで輝いていた。