若い子は、雑誌なども買うのかな?
出来れば、この場で生理用品も買っておいて欲しい。 

女のコの買い物は
きっと長いだろうな。

元妻の真紀子なんて
湯水の如く、ブランド物を買い漁っていた。

今は、亮二より年収の高い
IT会社の社長と再婚した。
真紀子より8つも年下らしい。

というか、亮二と結婚している最中の
真紀子の浮気相手だ。

亮二も、そんな真紀子に嫌気が差して
浮気をしていた。
相手は職場の看護師だった。
そして、夫婦は簡単に崩壊した。

真紀子の買い物は長かった。
理緒は…
と思うと20分で理緒は
マックにいる亮二のもとへ帰ってきた。

「お、おまたせしました…
あの、おつりです…」

8万7000円…

「え?1万円ちょっとしか買わなかったの?」

「………」

「何を買ったの?」

「………」

叱られている子供のように
理緒がうつむいた。

買い物袋を見ると
パーカー、ジャージ、下着は、上下3枚ずつ。
生理用品はやはり買ったらしい。
あとは、安い化粧水

「それだけ…?」

「………」

10万円をわざと渡したのは
どれだけ理緒の自己肯定感が低いか
見極めようとしたからだ。

せいぜい使えて5万程度だろうと
予測していた亮二だったが
思った以上に理緒の
自己肯定感は低かった。

「分かった、それじゃあ、
服も靴も下着も上着も
何も足りないから
一緒に買おう」

このままだと日が暮れる。

亮二は理緒の手を引っ張って
服屋に行き、店員に、理緒に似合う
ワンピースやブラウス、スカートやパンツを
何着か選んでもらった。

「本当におキレイですね」

ピンクのワンピースを
着させられた理緒は本当にきれいだった。

理緒が試着室で
固まっていたので

「今、選んでもらった服
全部ください」

と、亮二はすぐ会計に入った。

ついでに、店員に勧められた
財布とバックも買った。
理緒には何となくサマンサタバサのブランドが
似合うような気がして、バックと財布はそれにした。

次にスプリングコート。
Aラインの落ち着いたピンクとグレーを各1着用ずつ。

靴は、ぺったんこのやつと、ヒールが高めな靴を二足選んだ。色は店員が勧めた、黒とピンクベージュのものを購入した。

次に、メイク用品は、店員に理緒を見せて選んでもらった。

「リップはこのお色が
お似合いですよ」

「肌が白いですね」

「アイシャドーは、
こちらがよいのでは?」

人形のように固まっている理緒に
店員は、次々に理緒にメイクをして
似合う色を模索していった。

髪を切り、買い物が終って、
メイクを施された理緒は
どこかのお嬢様に見間違えるほど
美しくなっていた。

買い物が終わって帰宅したあと
理緒は慣れない場所で
疲れ切ったのか、亮二の社宅の玄関に座り込んだ。

「疲れたかい?」

亮二が理緒の顔を覗き込んだ。

「…すこし…」

「休む?寝る?」

亮二の問いかけに

「あの…ありがとう…ございます…」

うつむきながら理緒が
申し訳無さそうに言った。

「いや、これくらい当然さ
また必要なものがあったら買おう」

そう言って、理緒の身体を起こし
理緒専用の寝室のベッドまで
連れて行った。

「…ちょっと、
寝てもいいですか…?」

「ああ、お休み」

きっとパジャマに
着替えてから寝たいだろう。
亮二は静かに寝室のドアを締めた。

夕飯は何を作ろう…
またカレーライスに
なってしまいそうだ…

女の子はパスタとか
そういうのが好きなのかな。

亮二は、パスタを茹で、ミートソースの缶を開け
皿に盛ったパスタにドバっとかけた。

「あ、ソースを温めなきゃだめだったか…
まぁ…許してもらおう…」

亮二の雑なミートソースパスタが
出来上がった頃、理緒を起こしに寝室に向かった。

「理緒ちゃん、夕飯なんだけど…」

ドアを開けて、声をかけたが、理緒の反応がない。

ベッドに横になったまま
動かない理緒の顔を覗き込んだ。

すやすや寝ている。
その顔は、天使のようで
亮二はドキっとした。
起こさないでおこう…
そして亮二は、そっと、理緒の
寝室のドアをしめた。

そして、雑なパスタを一人で食べて
理緒が起きたときパスタを食べるよう
メモ書きを残して亮二も自室に入った。

その後はパソコンで雑用し
文献などを読み、学会の日程などを確認し
気がつくと夜中の12時になっていた。

亮二は、ささっとシャワーを浴びて
寝ることにした。

きっと、今週も忙しい。
毎日オペが入っている。

そういえば理緒は…

キッチンの隣のテーブルを見ると
まだパスタがそのままだ。

亮二はもう一度、理緒の寝室をのぞいた。
まだ、眠ったままだ。

「そんなに疲れたのか…
連れ回したかな…」

理緒の眠っている顔を覗き込んだ。

真っ白で顔色が悪いが
ちゃんと息はしてる。

それにしても、濡鴉(ぬれがらす)のサラサラの
黒髪が美しい。

亮二は思った。

時間がかかっても
理緒が普通に生活できるよう、これからも、支えようと。

きっと、今まで、安心して眠ってこれた夜など
ほとんどなかったのだから。

これが父性愛というものなのか…?
亮二は自分にクスッと笑って、自室に戻って休んだ。