「あ、あの……山内先生。ランチ代は、私が……」


俺がぬりえのラッコを塗り終えたところで、美優が俺に向かって話を振る。しかも何事かと思えば、支払いの話。
きっと、この話をしようとタイミングを見計らっていたのだろう。


「美優、今日のことは気にしなくてもいいから。朝言ったろ? 俺がしたくてしているんだ」

「で、でも! 入場料まで払っていただいたし……」

「大丈夫。それから、俺のことは『先生』じゃなくて『晃洋』でいい」

「え! それは……えっと?」


俺の提案に顔を真っ赤にして慌てている美優。もう、可愛くてしかたがない。


「だって、こんな場所で『先生』なんて呼んでたら変だろ? ほら、呼んでみ?」

「えぇ……あ、晃洋……さん」


恥ずかしそうに俯きながら、俺のことを下の名前で呼んでくれる美優。本当はさ、今すぐ抱きしめたいくらいなんだが。
それくらい可愛いし、もう誰にも渡したくない。

なんて、妃織ちゃんの前でそんな独占欲丸出しのことはさすがに言えないけれど。
妃織ちゃんの前では、とりあえず『かっこいい整形外科の先生』を精一杯演じて見せますとも。


「お待たせいたしました」


そんなことを考えているとオーダーした料理が運ばれてきて、それぞれの間の前に置いてくれた。
案の定妃織ちゃんは一瞬で料理に飛びつき、右手にスプーンを持って食べ始める。