「お母さん、大丈夫です。ちゃんと歩けるように、私たちが頑張りますからね」


少しでも彼女の不安を取り除こうと笑顔でそう伝えて、俺はナースたちにオルソグラス固定をするように指示を出す。
ナースたちが処置をしている間に、俺は彼女の左膝の挫創の処置をしたい。

止血はしているが広範囲で、気になって仕方がないのだ。


「お母さん、そんなに不安にならないで。それより……お母さんも膝のケガの処置をしましょう」

「え？」


大きく目を見開いて、自分の左膝に目線を落とす彼女。やっぱり、気が付いていなかった。
もしかしたら、痛みですら感じていなかったのではないかと思ってしまう。

それでも自分のことより娘のことを優先して心配する彼女に対して、俺は感激したのだ。
親であったら当然のことかもしれない。けれど彼女はシングルマザーで、今までもたくさん我慢してきたことがたくさんあっただろうに。

両親がいても、子どもに関心のない親もたくさん見てきた。
ケガをしても通院治療は時間がないからと理由をつけて断ったり、内服の残薬を理解していなかったりと、そんな親だってたくさんいる。

それでも彼女はそんな素振りは一切なく、終始妃織ちゃんのことを心配していた。