手術室の入り口の真横にある家族待合の前で足を止め、看護師さんに妃織を受け渡す。
妃織が離れた瞬間にまた不安の波が押し寄せたけれど、さっき病室で山内先生に言われたことを思い出して、一生懸命不安を噛み殺した。


「では、これから手術を行います。約2時間ほどで終了すると思いますから、こちらでお待ちください」

「はい……。妃織のこと、どうかよろしくお願いします」


腰を折って深々と頭を下げると、頭の上で「任せて」と山内先生の声が聞こえた。

もう、山内先生を信じるしかない。
手術室へと消えていく妃織たちの姿を見送り、私は待合室に腰を下ろした。


* * *

「川崎さん。手術、無事に終わりましたよ」


コンコンと言うノックの音とともに、先ほどの看護師さんの声が聞こえた。座ったまま(うずくま)って両手を顔の前で合わせていた私は、声に反応して勢いよく顔を上げる。

立ち上がってドアを開けると、看護師さんと山内先生が立っていた。


「お母さん、無事に終わりましたよ。お疲れ様でした」

「よかった……」


無事に終わったと聞いて安心した私は、全身の力が抜ける。

しばらくすると手術室の看護師と一緒にストレッチャーに乗せられた妃織が運ばれてきて、私の目の前で停止した。「妃織!」と声を掛けたけれど、まだ麻酔が効いていて眠っているため返事はない。