いや……今病院内を歩いていても、夫婦に見間違えられてもおかしくない。もしかしたら、あの2人は結婚するという噂も立っているかもしれない。

どうすることもできないままその場に立ちつくしていると、2人の後ろを歩いていた女性看護師さんたちがヒソヒソ話しながら私の前を通り過ぎて行く。


「ねぇ、さっきの見た？」

「あぁー、山内先生と宇田先生でしょ？　お似合いよね」

「やっぱり結婚するんだろうなぁ」

「そりゃそうでしょ。医院長の娘さんだよ？　山内先生と結婚させたいに決まってる」


徐々に遠くなっていく看護師さんたちの声。

もう、これ以上は聞きたくない。
ここにいたら、聞きたくないことも勝手に聞かなければならなくなってしまう。

いたたまれなくなった私は妃織のことを抱きかかえると、そのまま病院をあとにした。


その夜。妃織に夕食を食べさせて寝かしつけを済ませると、私はテーブルに一人突っ伏した。
昼間に病院で聞いた宇田先生や看護師さんたちの言葉を何度も何度も反芻(はんすう)しては、『自分は晃洋さんにふさわしくない』という思いが膨れ上がっていく。

晃洋さんは『美優がいい』と言ってくれている。
でも、それ以上にお似合いだったあの2人の姿が瞼の裏に焼き付いて、なかなか消し去ることができない。