それに……これ以上、事を荒げたくない。
もしこのことが宇田医院長の耳に入ろうものなら、私は確実に晃洋さんとの関係を絶たれてしまう。

そんなことは、絶対に嫌だ。


「そうですか……。では、もう少し休んでから帰宅されてください。子どもさんも心配されてますよ」

「はい。わかりました」

「では大丈夫とのことですので、失礼します」

「ありがとうございました」


私がお礼の言葉を伝えると、その場を去って行く中林先生。
たったこれだけのことなのにわざわざ気に掛けてくださって、申し訳なかったな。それに、さっきの店員さんにもとっても親切にしていただいた。

お礼を伝えてから帰らないと。と思い、妃織の手を握ったときだった。


「あ……晃洋、さん……」


午前の外来を終えて診察室を出て来た晃洋さんの横に、ぴったりと張り付いている宇田先生。

晃洋さんは私には気が付かず、整形外科の待合室を颯爽と歩いて行く。
宇田先生は私に気が付いているのか……「お似合いでしょ?」という目付きで、待合室を通り過ぎて行ってしまった。

ーーあぁ。やっぱり私は晃洋さんにふさわしくない?
今、2人並んで歩いている姿は、とてもお似合いだった。

アメリカの街をあんな風に2人で歩いていたら、どこからどう見ても夫婦にしか思われないだろう。