ふぅ……と大きくため息を漏らし、天井を見上げる。


「ママ……どこかいたい?」

「え、ううん! 大丈夫。妃織も怖かったよね」


隣で心配そうに私のことを見上げている妃織の身体を、ぎゅっと抱きしめた。

きっと、妃織も今までに経験したことのないようなことで、怖かったに違いない。私と宇田先生が言い合っているあいだ、ずっと私の身体で顔を隠していたから。

でも、それよりも私のことを心配してくれている妃織が、今はどうしようもなく愛おしく感じた。


「川崎さん。内科ドクターの中林です。大丈夫ですか?」


背後から声を掛けられ後ろを振り向くと、内科の先生と名乗っている背の高い男性と、先ほどの店員さんが立っていた。
店員さんはたまたまあの場所に居合わせただけだというのに、ここまで親切にしてもらって本当にありがたい。

店員さんは安心したように頭をペコリと下げてから、売店の方へと帰って行く。


「わざわざすみません……。だいぶ、落ち着いてきました」

「でも、少し顔色が悪い。処置室で休んだ方がいいかもしれない」

「いえ! そこまでしていただく必要はないです! もう少し休めば楽になると思うので、大丈夫です」


特別体調が悪いというわけではない。
ただ、さっきのことから解放された瞬間、全身の力が抜けてしまったというだけ。