「彼はとても優秀なドクターよ。そんな彼が私と結婚したら、お父様も大喜びだわ」

「まっ、待ってください! 結婚のことは……」


それだけは絶対に譲れない。

私には医療知識もないし、飛びぬけて美人というわけでもない。それにシングルマザーだし、これと言ったなんの取柄もないけれど、晃洋さんを好きな気持だけは負けない。


「なに? 私よりも、自分の方が見合っているとでも言いたいの?」


宇田先生の鋭い視線が突き刺さる。恐怖で身体が小刻みに震えてしまうけれど、ここは引き下がれない。


「確かに私は、なんの取柄もありません」

「そうりゃそうでしょ。だからこそ、山内先生は私と結婚するのがふさわしいの」

「でも……私はあなたのように、ズルい考えで一緒にいるわけではありません」


その言葉に、宇田先生は顔を顰めた。どうやら、図星のようだ。

優秀なドクターである晃洋さんと結婚すれば、自分の将来も安泰……と考えていたのだと思う。
私は、そんな生ぬるい覚悟で晃洋さんといるわけではない。

自分の子どもでもない妃織に、たくさんの愛情を注いでくれたこと。いついかなるときも、私たちのことを1番に考えていえくれたこと。

それらすべてをひっくるめて、私は『山内晃洋』が好き。
彼が医者でもそうでなくても、きっと好きになっていたに違いない。