妃織の目線に合わせて屈むと、頭を撫でている晃洋さん。


「あ、あの……桜川先生って」

「そう。あの有名な桜川総合のドクターで間違いない。俺から伝えておくから、必ず受診して」


そう言った晃洋さんは「それじゃぁ」と手を振って診察へと戻って行く。

晃洋さんのことだ。多分、後任のドクターに診察を任せるのが嫌なんだと思う。
その桜川先生なら信頼できるし『頼んでおく』と言ってくれたのだと。

晃洋さんらしいなぁと思いつつ、信頼できるドクターに診察してもらえるのはありがたい。


「ママー、おはなしおわった? ひお、のどかわいた」


クイクイと私の服の裾を引っ張って、ジュースを欲しがる妃織。
「ジュース、買おうか」と、絵本をバックに片付けて、売店へと向かった。

妃織はリンゴジュース、私はコーヒーを購入して、売店を出ようとしたときだった。


「あなたが川崎さん?」


急に名前を呼ばれて、声のする方へと目線を移動させると、背の高い白衣を着た女医さんが目の前に立っていた。
この女医さん……さっき晃洋さんと一緒に診察室にいた人だ。

診察は終わったはずだし、個人的に用事はないはず。
それなのに、なぜ声をかけられたのだろう。