とても親切なオーウェン・フィリップスは。
 私とパピーとおじさんのトラブルを最初から見ていたのに、事が落ち着いてから声をかけてきた人だ。

 それにその台詞にしても。

『貴女の力になりたいのです。
 貴女の侠気に心を奪われたこの僕に、お手伝いさせて下さいませんか?』だった。


 この台詞のオリジナルは『貴女の侠気』ではなくて『貴女の全て』だ。
 3年くらい前に流行った恋愛小説のヒーローがヒロインに向かって言う台詞。

 その小説を愛読していた私は直ぐに分かったけれど、それを口にするのは野暮だ、と気付いていない振りをした。
 さっきの、共犯者云々もどこかから借りてきた台詞なんだろう。


 信用してはいけない。
 フィリップスさんはとても弁が立つ人。
 本当と虚構を上手に混ぜて、こちらを取り込もうとしてくるような人かもしれないのだが、今助けようと手を差し伸べてくれたのはフィリップスさんだけだった。