「どうして、弁護士を?
ムーア氏からは、何度かお嬢さんの名前は聞いていましたが、シーズンズを継ぐとばかり思っていましたよ。
それに……私は事務所を辞めたばかりで、充分な給料等支払えそうもないんです。
まだオフィスも借りることも出来なくて、事務仕事は自宅です。
女性との打ち合わせは、ここを事務所代わりに使用させて貰ってるくらいなのに」
こちらのカフェのオーナーがフィリップスさんのご友人で、依頼がある時も、ない時も、快く場所を提供してくださっているそうだ。
「それに、正直に言いますね。
ムーア氏から貴女を鍛えてやってくれ、とは頼まれましたけれど。
ムーアの仕事が私の生命線なんですよ。
貴女が司法試験に合格して弁護士資格を取得した暁には、私はお払い箱になる。
そのお手伝いをするのはなぁ……というのが正直な気持ちです。
いや、情けない話ですが」
「偉そうに聞こえたらすみません、あの、そのお気持ちは理解出来ます。
ですが、私は経済系に進みたいわけじゃなくて」
3年ぶりにお会いするフィリップスさんは、相変わらずダンディだったが、前回とは違い、少し生活に疲れているように見えた。