○一年一組、教室。

 千華が戻ってくると、みんな先に食べ始めていた。
 涼介と真尋が向かい合っており、千華の机の前には玲那が座っている。

玲那「千華ちゃん、おかえりー! 遅かったね」

 おにぎり片手に、頬をパンパンにしながら言う玲那。

真尋「おかえりなさい、如月さん」
涼介「あれ、如月さん何も持ってないじゃん。どうしたの」

 椅子に座りながら千華は「あはは…… 」と、苦笑いを浮かべた。

千華「実はどれにしようか悩んでたら、売り切れちゃって」
涼介「マジか」
玲那「ええっ!」
真尋「それは大変だ。俺のを食べてください」

 そう言いお弁当箱を差し出す真尋。

千華「そんな、悪いよっ」

 手を振り千華が断ると、真尋はじーっと千華を見つめてから、おもむろに箸で唐揚げを摘んだ。

真尋「如月さん、あーん」

 ざわり、と教室にいた女子達が色めきだった。千華はそれに気付き、真尋から顔をそむける。

千華「なっ、いや、だから……」
真尋「この後の授業で、如月さんの可愛らしいお腹の音がなったら大変です。俺しか居ない時に聞かせてください」

 顎をつかまれて、ぐいっと真尋の方に向かされた。
 迫ってくる唐揚げ。「ううっ、美味しそう」と千華は唐揚げを苦しげに見つめた。
 ついに誘惑に負け、あーん……と口を開ける。

千華(…………あ)

 廊下で窓わくに肘をつき、ジトッとした目でこちらを見ている樹と目が合った千華。
 見損なったぜ、と言わんばかりにため息をついて、そのまま歩きだした樹。

千華(九条くん!? 今のため息は何よ……!)
千華「ちょっと待って──んぐッ!?」

 咄嗟に樹を呼び止めようとしたが、

真尋「美味しいですか? 如月さん」

 開いた口に唐揚げを入れられ、大人しく咀嚼する千華。
 こくりと頷いて、もぐもぐと食べる千華が可愛いのか、頬を少し染めて微笑む真尋。