転機が訪れたのは、この業界へ足を踏み入れてから5年後の事。

劇場アニメ作品の主人公声優に抜てきされた。

“夢の中で男女が入れ替わり、お互いを好きになって行く。だけどそれは時間軸がズレていて現実では会えない。過去と未来が重なる時。かたわれ時と呼ばれる現象の時に1番、会いたかった人と出会う。お互いが、これから起こりうる災難を回避すべく動き、災難を回避した新しい未来で2人は出逢う。お互いに名前も知らない愛しい人に”

ざっくり言うと、こんな感じの劇場アニメだ。

一般に公開される前に、関係者だけが集まる試写会で映画を見る事になっている。

相手役の声優を担当した、俳優の先輩は歳で言えば5歳しか変わらないのだけど、芸歴は遥かに上。

天才子役と言われていた俳優さんだ。

激しい荒波がある、ここ芸能界で何十年も、その地位を保っている。

それなのに物腰が柔らかく、面白くて、誠実な人。

私は、その人を“りゅうさん”と呼ぶ。

新田隆之介(にったりゅうのすけ)この時は23歳だっただろうか。

若くして芸歴20年のベテラン俳優だ。

試写会が終わって、りゅうさんが楽屋に顔を出してくれた。

『萌音ちゃん、ちょっと良い?』

「りゅうさん?どうぞ」

りゅうさんが珍しく、仕事終わりに直ぐに帰らず楽屋に来た。

その理由は……。