青葉ちかげから、ビンタを受けた私は、きっと何度人生を繰り返したって、動揺する私でいたと思う。
他人からビンタをされるなんて、そうそうあるもんじゃない。あの偉大なプロレスラーがまだ生きていたら、可能性もあったかもしれない。しかし、だ。仮に生きていたとしても、芥子粒ほどの確率しかない。
「さ、今度はあなたの番だよ。ほら、さ、来い!」
と、顎を突き出して、両手で煽ってくるちかげに対し、何をすれば正解だったのだろうか。誰か教えてください。
「ちかげか?」
と、上裸に咥えタバコで、息子、頼人が出てきた。
「あら、息子。久しぶり。ネイルちゃんはどうしたの?」
「今日は来てねえよ」
ネイルちゃんとは、アゲハのことだ。
ちかげが来るということを知ったアゲハは、見たこともないような苦悶の顔で、「用事できた」とそそくさと、帰って行った。
「ホリーちゃんも、用事あるなら優先したほうがいいよ?」
という忠告空しく、私はちかげに会ってしまった。
「あら、そう。今日はネイルちゃんに用があって来たのだけど……まあ、いいわ。あなた」と言って、ちかげは私を指差した。
「私に付き合いなさい。嫌とは言わせないわよ」