アゲハが死んで、頼人はタバコをやめた。


匂いは記憶ということを、SNSの呟きで見たことがあったから、きっとそういうことなんだと思う。


タバコを吸うことで、アゲハを思い出してしまう。頼人はそのことに気づいて、やめたんだと思う。


だったらと、私もアゲハからもらった服を、処分することにした。


少なくともこのアパートの一室から、アゲハを思い出させるようなものは一つでも少ないほうがいいと思ったのだ。


しかし、頼人の中にはいつまでも、アゲハがいて、月命日になると、決まって頼人は明治神宮へ出かけた。


一度、こっそりその後をついて行ったことがあった。


しかし、頼人は明治神宮の鳥居はくぐらず、遠くから眺めるだけだった。


そのまま突っ立って、数時間して、帰ってくる。


帰ってきた時には、


「ホリーちゃんはさ、流しそうめん屋さんって行ったことある?」


といういつものように、どうでもいい話をしてきた。


「流しそうめん屋さんなんてあるの?」


「あるんだよ、それが。今度一緒に行こうか」


「やめとく」と私はコンビニで買ってきたしょうが焼き弁当を食べながら言った。


「なんか、そういうの私、無理だから」