バルコニーに出ると、夜風が頬を撫でる。


風が気持ちいい。



「はい、乾杯」


カチン、とグラスを合わせて一気に煽る。


「深門は……中にいなくていいの?」


「別に、僕一人くらいいなくても平気だよ。
それより、もうアルニスとは呼んでくれないのかい?」


「……記憶がまだちゃんと戻っていないの」



この人との記憶は、はっきりとは思い出せない。


彼女ーールイは、この人にどんなふうに接していたのだろう。


「記憶が戻らないのは不安かい?」


「…‥少し。きっと。あの人が私を通して見ているのはルイに違いないから……」


不安に、なるのだ。


深門は笑みを刻んだまま、グラスを置いて近付いてきた。



「やっぱり、君が好きになるのはあいつなんだね。なら……」


「もう、いいや」と、そんな声が聞こえて首を傾げる。


何が……と、問いかけようとした。