目の前にいるのは、人間ならざる存在。
緋色に底光る、深い赤の瞳。
手では隠し切れない、真っ赤な付着物を唇に纏い。
その隙間から覗く牙を舌で舐めとる姿はまさに
生来露わにした一匹の『獣』――。
ズキンっ…
忘れかけた頭の痛みが再び襲う。
知らない光景、物のありさま、側にいる安らぎ、愛おしい存在。
けれどとても、懐かしい。
「ル、イ……」
ぽつり、水滴が顔にこぼれ落ちた。
それは、目の前の人の涙。
会いたくて、会いたくて、会いたくて。
何度転生しても焦がれたあの人の、ようやく会えたという喜びの感情が濁流のように流れ込んできて、私の胸を刺す。
思い出したくなかったのに…。
今の私は、過去の記憶を受け止めるほど強くはないのに。
どうして、今世で思い出してしまったのだろう。
ああ、どうしてなの……。
そこまで考えて、ぷつりと意識が途切れた。