ピクリと、背を向けた王子の肩が揺れ、動きが一瞬止まる。


そのままこちらをゆっくり、振り向いた。


気付かれたと、そう思った。


あいにく視界が悪く、その表情を確認できない。



「――…しい、欲しい。この、匂い……
欲しい……血臭だ…」


「…!?」


あまりの衝撃に目を見開く。



ゆらり、と立ち上がっておぼつかない足取りでまた倒れそうだ。


けれど確かに、こちらに目標を定めている。



様子がおかしいどころではない。


離れなくては……



元来た道を引き返そうと、後ろを向いた瞬間――。




キィイ……とドアの軋む音。


耳元の荒い息を直に肌に感じた。



いつの間に……



そう思う間もなく、異常なほど熱い体温に包まれた。



突然のことに、頭は錯乱状態だった。


部屋の中へと引きずり込まれ、無情にもドアが閉まるのを遠く見た。