ドアの剥がれた木片が手の内側に、棘のように刺さる。
それに驚き、滑った拍子でそこから手首辺りまでザックリ切ってしまった。
赤い線が浮き出て、血が一滴、皮膚の上を伝う。
やってしまったと頭を抱えた。
幸いにも声を上げることもなく気付かれてもいない。
この程度で痛いも何もないけれど、傷口が空気に晒されてピリピリとする。
「とりま、薬だけ超特急で取ってくるから。
こんなとこ誰も来ないだろーけど油断すんな。絶対この部屋出るなよ」
「余計な、世話だな…っ」
「強がんなっての」
そんな会話ののち、カツン、とこちらに向かってくる足音。
今見つかるのは流石にまずい気がした。
わざわざこんな場所でする話、聞かれては困る内容に決まっている。
そう判断して、柱の影に身を隠した。
なぜ私がこんなことをしないといけないのか、混乱する頭では到底分からなかった。