燃え上がる屋敷を尻目に、漆黒の髪を月夜に光らせながら青年は進む。
既に焼け野原となった広大な敷地内に逃げ場などなく、何の力も持たない人間(ヒト)は命果てるまで嘆き、叫び狂う。
きっと夢にも思わないだろう。
それが自分達の犯した戒めの報いなのだとは。
青年が向かう先はただ一つ。
今まだ火の届かぬ離れの塔の最上階。
長く伸びる木を慣れたように軽やかに伝い、器用に塔の窓辺へ飛び移った。
「ルイ、俺だ。外は恐慌している。
今がチャンスだ。事情は後で説明するから早く……」
いつになく弾んだ声色は、途切れた。
いつものように快く出迎えるはずの少女が出てこない。
頭の回る彼は、すぐさま変だと気付いたのだ。
そっと室内を見回して、寝台脇に倒れる少女を見つけた。
「ルイ……っ!!」
尋常じゃないほどの焦りを滲ませながら、少女を抱き起こした青年は気付いた。
もう、手遅れなのだと――。