「…ごめん」



やんわりと断るのではなく、それはもうバッサリとだった。

バッサリしつつも、やっぱりあやふや。


「ごめん」と。

もしかするとその言葉が、わたしがいちばん傷つく日本語なのかもしれない。



「あっ、いやいや!俺が勝手にしただけだから…!迷惑だったよねっ、俺こそ本当にごめん…!」


「…迷惑とかじゃ、ないけど」



かなり戸惑っていることは伝わってくる。

なにやってるの、わたし。

琥珀くんをこんな顔させたいわけじゃなかったのに……。


もうちょっと。
もうちょっとだけ、頼くん。

あのね、このまま離さないでほしい…かも。



「まあ、それもそうだよね琥珀。おまえ好きな子いるし」


「うん」



好きな、子……?


わたしの目には、まさか琥珀くんが間合いなく肯定したとは数秒間見えなかった。

周りの音がザァァっと砂嵐のように聞こえなくなって、意識が遠のく。



「カンナ?」


「……っ」



今になって気づくなんて、わたしもどうかしている。