一瞬、ムツミの表情が曇ったこと。
わたしは見逃さなかった。
わたしはバンドの世界はまったくの無知で、ただバンドコースにした理由はいちばん……簡単そうだったから。
他はアイドルコースと俳優コース、どう考えたって無理すぎる。
「ねえムツミ。Ark.ってバンド、知ってたりする?」
「………」
クラスメイトの背中、きれいに停止。
充電が切れてしまったロボットみたいだ。
「…なんで?」
「いや、前の学校の友達がさ!すごく好きで、でも好きになった頃には解散しちゃってたらしくて。だからなんか、もし知ってたら情報だけでもあげたいなーって!」
なーちんとは今朝もメッセージを送りあった。
《今日から新しい学校ファイト!》って言ってくれて、それだけで気合いが入ったものだ。
「狐のお面をしてる覆面バンド、知らない?」
「……知らねーわ」
「そっかー」
伝説のロックバンドって言われてたくらいなんだよ?
本当に知らない?と、わたしはしつこくし過ぎたのかもしれない。