「……あーー、もう」
「わっ…!」
降参、諦めた、無理。
そんな空気が彼から放出されると、わたしの身体は強く強く包み込まれる。
「…なんで戻って来ちゃうんだよ……」
初めての声。
腕と同じように震えているから、逆にわたしの目からぶわりと溢れた。
「せっかく俺が格好いい友達キャラになろうとしたのに。自分の気持ち犠牲にしてまで…おまえの背中を押して、
そうしてまで……男としてカンナチャンの幸せ願おうとしたのに」
「っ…、むりだよっ、だってわたし、頼くんが大好きだもん……っ」
どんな場面だって呼びたい名前は頼くん。
綺麗なものを見たとき、新しいことを知ったとき、いちばんに伝えたい人も頼くんだから。
「俺の立ち位置、かなり難しーの。…知ってた?」
ふるふると首を横に振る。
わたしが男の子として生きるために、いつも隣には頼くんがいた。
当たり前のように支えてくれて、当たり前のように助けてくれたから、わたしは何も知らなかったんだ。