琥珀side




棘(とげ)が、すうっと抜けた感覚がした。

ずっとずっと心に埋め込まれていた、鋭くて到底抜けそうになかったものが。


息が吸える。

取られたマスク、僕はもう呼吸ができる。



「しおん」



今日も花屋の前、立ち止まってしまった。

僕は執念深くて不器用な男だから、君が何事も器用にこなしてしまえる頼に惹かれた気持ちも納得できる。


僕もそんな頼のことが大好きだったから、わかるよ。



「志音」


『…琥珀?どうかしたの…?』



いきなり電話をかけてしまったから驚いてる。

いつも時間を決めて、ほとんど僕が彼女の予定に合わせる日々だった。



「ごめん、寝てた?」


『ええ、寝てたけど…。平気よ』


「どうしても伝えたいことがあって」



アメリカとの時差は約13時間。
いま向こうは深夜帯だ。

完全に睡眠を妨げてしまったけれど、僕は伝えたくて仕方なかった。



「志音。───僕はきみが好きだ」



遠回し遠回しに君のことを想って行動してきた僕だけど、いちばん簡単な方法がいつだって実践できないままだった。