あの日のことでしょ。

わたしの家で、せっかく出した温かかったココアを冷めきらせた恨みはすごい。



「琥珀くん…、いつあんなの覚えたの…?」


「…しょっぱかった」


「んなこと聞いてんじゃねえ」



……あんなに触ってきて、どーいうつもりだ。

許さん。
これは一生として許さん。


それでもね、頼くんの甘さはまだ残ってるんだよ。



「もしあのとき…、わたしが琥珀くんを選んだとしても結局は応えないくせに」



聞こえてるはずのつぶやきを、“あえて”聞こえないふりをしていることだって。


ずるい。

それが蘭 琥珀なんだろうけど、だからと言って蘭 琥珀っていうジャンルにそこまで甘えないでもらいたい。



「……なんでマスク、戻しちゃったの」



せっかく外してたのに、どうしてまた。

なにも変じゃなかったよ。



「……見せたくないもの、あるから」


「…それで隠してるの?」


「…うん」



同じ動きをしてお互い、マフラーに唇を埋めた。


とてつもなく、すごく、たくさん。

頼くんに会いたくなった───。