そんなわたしの背後、くいっと腕を引くように女性から距離を取らせた誰かがいた。

ふわりと香るシトラス。
儚くて綺麗で溶けてしまいそうな声。



「そーいうの、よく分かんないから」


「お友達かしら…?確かによく分からないわよね~。おばさんも最初はそうだったの」


「いや、そうじゃなくて。幸せになるためにお金を巻き上げるってのが、僕には分からない」



琥珀くんが来たことで、わたしは何かの催眠術から解けるようにパチンっと意識を戻した。



「ええっと、それは……、やっぱりタダで貰えるものは無いじゃない?この世の中」


「お金で買えるものではないから“幸せ”なんじゃないの。
あなたは詳しく説明できもしない本を売り付けて金儲けだけど、信者には不幸のサイクルを作って洗脳してるだけでしょ」


「……そ、そんなこと、」


「いちばん怖いのは精神を乗っ取るほどのお金だと思うけど、僕は。
それも未成年から搾り取るなんて、幸せなくせにずいぶんとケチ臭いことするんですね」


「ちょ、ちょっとおばさん用事を思い出したから行かなくちゃ…!さよなら~」