足を止めてしまったが最後。

わたしの目の前に回り込んだ女性は、今度はガサゴソとトートバッグを漁ってパンフレットらしきものを差し出してきた。



「聖書って聞くと、宗教?なんて思うわよね~。でもおばさんたちはそうじゃないの。
誰もが幸せになれるための道を、あなたのような人に知らせてあげたくて」


「……本当にそれで…幸せになれるんですか…?」


「ええ!この聖書を持てば、必ず幸せになれるわ」



そんな本1冊で幸せになれるなら、この世界の誰もが幸せになっている。

貧しい人だっていない、食料困難にも陥らない、争いなんか終わる、その神様の言うとおりにしていれば。



「……それ…、欲しいな…」


「本当に!じゃあ少し時間あるかな?どこかでお茶でも飲みながらお話しましょう?」


「でもそーいうのって…高い、ですよね」


「それもね、安心して。ちゃんと段階があるの。だからとりあえずは───」


「大丈夫です」


「わ…っ」