「いま、幸せですか?」



通学路の道。

徒歩5分で到着する道は、最近はずっと50分に感じた。


一足一足がそれはもう鉛(なまり)のように重いのだ。


右足、左足、ほら歩いて。

って、わざわざ命令しないと動いてくれないポンコツめ。



「…え?」


「いま、幸せですか?」



声をかけられていることに気づき、ようやく振り返ると、メガネをかけた地味なダウンジャケット姿の中年女性がひとり。

にんまりと怪しげな表情、手にする分厚い本には「聖書」と書いてある。


胡散臭いオーラを持った女性は、わたしに「幸せですか?」と聞いてくる。



「…幸せ…じゃ、ない」


「うんうん。すごく悲しい顔をしているもの。あのね、この本なんだけれどね?ここには神様のお告げが書いてあるの」


「はあ…」


「その言うとおりにしていれば、必ず幸せになれるわ。どう?ちょっとサンプルだけでも体験してみない?」