あのとき琥珀が文化祭でカンナに歌わせたときから、俺は薄々そうなんじゃないかって思ってた。



「でも…僕、少しだけ思ったんだ」


「……なにを」


「もし頼が志音を見るようになったとして、今度は郡さんが僕の名前を呼ぶことが多くなったら。……それもそれで楽しいかもって」



こんなふうに思ってんじゃないかって。


だから俺は奪いたかったんだ。

予定を覆してまでキスをして、あの子の目には俺しか見えなくさせた。


ほんとズルくてセコい男だよ。


でも俺の立ち位置ってさ、大体は良い奴で、キューピッドで終わるだろうから。

それだけはどうしたって嫌だった。




「…僕にとっても、郡さんは特別だから」




恋に、なることもできるんだろう。

カンナが俺に対して“恋”にできたように、こいつだって。


そういえば俺、まだパーカー預かったままだったっけ。

弱みのように握っては近づいたきっかけでもある、琥珀のパーカー。


あれはカンナが返さないと意味ないね、やっぱり。