それだけは分かった俺はその日、子供のように泣いたカンナを優しく抱きしめるだけで家には上がらなかった。

買ってきた袋を渡して、「学校で待ってるよ」と、それだけを伝えて。



「琥珀、俺だけど。…ちょっと出てきてよ」


《……郡さんの様態は》


「そのことでも話したいから」



相変わらずでかい家だ。
さすが有名作曲家の息子。

でも、そう見られたくなかったんだろお前はずっと。



《…わかった》



立派な門の前で待っていると、制服姿の琥珀が出てくる。


なんか、昔を思い出した。

ずっとキャッチボールしていた男の子が急に来てくれなくなって、俺は今みたいにここで待ってた。



『琥珀くん!』


『よ、頼くん…』



グローブとボールを持った俺は、琥珀を近所の野球クラブに誘うつもりだったんだ。

俺の球を怖がらず受け止めてくれるから、いいバッテリーが組めるんじゃないかと思って。