「カンナチャン」


《……より、くん》



オートロック操作盤の前、インターホンを押す。

数日ぶりに聞いた声に愛しさが溢れて、今すぐにも抱きしめたくてたまらなくなった。



「カンナの好きなもの、いっぱい買ってきたよ」



しばらくするとエントランスに続くドアが開く。

そのままエレベーターで4階まで向かって、部屋の前でもう1度インターホン。


ガチャリと、ドアが動く力さえもまた消えそうだった。



「…駄目じゃん。俺以外の男を入れたりなんかしたら」


「……ごめ、ん」



確信していなかったことが確信になった。
やっぱりあいつだった。

この子を泣かせてくれるのはいつだって琥珀だ。


それをずっとずっと見ているのは、俺なんだ。



「…カンナ……?」



まだ玄関内にすら入れてない。

通路と玄関の境界に立った俺へと、カンナは寄りかかってきた。



「……遅すぎるって…、もう……っ」



俺がこうしてお見舞いに来ることじゃない。

そこに対する「遅い」ではなかったこと。