「……ごめん…、カンナ、さん」



泣かないで、わたし。
泣いちゃだめ、あのときのわたし。


嬉しいね、名前を呼んでくれて。

抱きしめられて、わたしをこんなにも見てくれて。


間近で聞こえる甘い声も、ぎゅっと引き寄せて、後頭部をゆっくり撫でてくれる優しさも。


うれしいね、嬉しいね、うれしいね。


初めて好きになった人に、望んでいたことぜんぶしてもらえて。



「こっち、向ける?」



わからない。
もう、意味が分からない。

涙いっぱいで、ぐしゃぐしゃで、わたしの気持ちがどこにあるのかも。



「……っ」



おでこ。

それもまた、頼くんのものじゃない柔らかさが触れた。


なにをしているの、わたし。


なにをされているの、わたし。



「や、やめ…てっ」


「やめない」


「や…っ、おれっ、おとこ……っ」


「おんなのこ」



初めてされた、女の子扱い。

いいや、わたしが気づいていないだけで、あれもあれもぜんぶ、琥珀くんにとっての女の子扱いだったのかもしれない。