ザッと、微かな音が聞こえた気がした。
あの大きな木のうしろから、聞こえて。
それは俺に気づかれないように覗いては逃げてしまうような、かつての幼なじみに似ていた。
……いや、気のせいか。
「…志音。お前は琥珀にも同じこと言うだろ?」
「……え…」
「もし琥珀がお前じゃない女の子に夢中だった場合も。今と同じようなセリフを言ってくるんじゃない?」
志音は昔から欲張りなんだ。
俺たちがいつも右と左にいたから、それが当たり前のようになって。
どちらかが欠けたら泣いてしまうような。
でも自分は琥珀を置いて遠い遠いアメリカに行くんだから、ほんと笑っちゃうよ。
「……俺たちの両方は、手にできないよ志音」
「っ…」
「ぜんぶ手に入れるなんてことは、できないんだよ」
俺は幼なじみを切り捨てるつもりでカンナを選んだ。
琥珀のことを好きだったあの子だから、何度も何度も泣いて。
そんな姿をずっと見てきた。
だからもし納得できない理由でカンナが泣かされたら、俺は幼なじみ関係なくあいつを殴るつもりだ。