「んっ、…んうっ」
軽いリップ音を何回か響かせると、じっと見つめてくる。
それは「足りない」と言っている目で、自分では意識せず発動させているわけだから何ともタチが悪いことだ。
「デロンデロン、ゆっくり直してこうね」
「うんっ!…ふへへへ」
「さっそくだよもう」
やば、俺までうつりそうかも。
鏡見てないだけで、実は俺も同じ顔してることってない?
とりあえず家に帰ってから洗面台の前。
「………危なかった」
ギリギリセーフだ。
分かる奴には分かる、そんな顔だった。
とりあえず俺もキリッと眉を寄せておこう。
いやでも、幸せなんだから仕方ない。
それくらいカンナが可愛すぎるってことで。
「お、こんなところに軟式球みっけ」
それからとある帰宅時、通学路にて。
この公園で足を止めるのは久しぶりで、たまたま丸いボールが落ちていたから呼ばれたように近づいてみる。
「プロ野球選手……目指してたっけ」
ベンチに座って、ポンポンと右手で遊んだ。