「カンナー?」



遠くから頼くんの声が聞こえてくる。

こんなにも、こんなにもわたしが求めていた状況はないのに。


ずっとずっと望んでいて、夢見ていて。


琥珀くんがここまでまっすぐわたしだけを見つめてくれること。

たぶん、2度と、味わえないものだというのに。



「───頼くんっ!」


「……、」


「琥珀くんっ、俺たち美術室Ⅱでやってるから…!あっ、できれば油性マジックたくさん持ってきて欲しいかも!!」



彼の手を振り切るように、頼くんの声のほうへ走った。

罪悪感はなくて、後悔もなくて。


ただもう、身体が勝手に蘭 琥珀ではなく御堂 頼へと動いてしまったのだ。


シオンさんを抱きしめていた琥珀くん。
会いたかったと囁いていた琥珀くん。


わたしのなかのあなたは、そういう人。

いつだってわたしに背中を向けて、振り向きもしない人。


それでいい、それが蘭 琥珀なんだ。



「そういえばお前、マジックは?」


「マジックは琥珀くんが持ってきてくれるよ!」


「……あれから20分は経ってるよね?来ないけど」


「……あれえ!?!?」



グラウンドの葉っぱが焦がれて、日中はぽかぽか陽気に涼しい風、夕方はほんのちょっとの肌寒さ。


笑えそうだ。

わたしの初恋はそんな神様ですって、
今なら───。