本当は不安いっぱいだったこと。
本当は、女の子で居たかったこと。

不良に絡まれたとき、ある人に救ってもらったこと。


その人がパーカーを巻いてくれて、この学校の制服を着ていて。



───その人に、会いたかったこと。



そんな気持ちだけで頑張れるような気がしたこと。

奇跡的なことに同じクラスで、隣の席で。



「ずっとお礼、言いたくて…っ、でも琥珀くん…覚えてなかったから、それでっ、そしたら……誰かにパーカー…、奪われた…」


「……ははっ」



笑い事じゃない…。

わたしにとってはせっかくのチャンスを踏み潰されたようなものだ。


こいつに、今ここでわたしを抱きしめてる男に。



「俺ほんとナイスすぎ。…うん、でもね、わりと俺も計画的だった」


「…けいかく、てき…?」


「最初はね。本当に最初は。…でも、そんなのすぐだったよ。どーでもよくなったの」



わたしの涙を拭って、頬を撫でてから続けた。