それは彼女だけが許されることなんだろう。

彼がずっと身につけていたマスクに触れて、外すことができてしまう存在は。


そのマスクの下をずっと見てみたかった。

どんな顔をしているんだろうって、どんなふうに笑うんだろうって。



「────……」



とても、格好よくて。
とても、美しくて。


静かな美術館で、目の前いっぱいに広がる絵画を眺めているような気持ちをわたしに味わわせてきた。

その絵画は圧倒されるほど魅力的で大きいものだから、たとえ遠くからだとしても見えてしまう。


どうしたって目に入ってしまう。

そして、嫌でも足を止めてしまう。



「日本にはいつまでいるの?」


「向こうのスケジュールと予定によって変更もあるだろうから、そこまでゆっくりはできないかもしれないの」


「…そっか」



彼はオーラだらけの人だから、触っていい人間もまた、オーラがある人じゃないといけないんだ。


腰にパーカーなんか巻かせるんじゃなかった、キャッチボールなんかさせるんじゃなかった。

わたしにそんな後悔を与えてくるほど、蘭 琥珀という人のすべてを見た。