今日は頼くん、用事があるから先に帰るって言ってたのに。
最近はいつも送ってくれて、徒歩5分のマンションだというのに、朝も迎えに来てくれる。
でも今日は家の予定があるからって、先に帰って行ったはずなのに。
「…裏口から帰るよ。カンナ」
下駄箱、彼は息を切らして立っていた。
まるでその噂を聞きつけてわざわざ戻って来たような、そんな面持ちで。
Sion、だって。
名前を聞いたときから、なんとなくはもう察してしまえた。
その人が誰を目的でこの学校に来たのかも。
そして、彼女の前には誰が居るのかも。
「志音……!」
「琥珀っ!会いたかったわ…!!」
初めてのものばかり、目にする。
初めてのものばかり、耳にする。
あそこまで大きな声を出せたんだって、またそんなこと。
駆け寄った男の声、待ち伏せていた女の声。
ふたつの声はもう、この世のものではないようにわたしには聞こえて。
「ちょっ、苦しいわ琥珀…!」
「………会いたかった」
「…私もよ」