「…そのあと、覚えてる?」
「わわわ忘れたっ!忘れちゃった…!!」
「あ、覚えてんねこれ」
忘れるわけがない。
どんなにどんなに頭のなかを綺麗にしたって、たぶん忘れない。
あんなの忘れるほうがおかしいんだ。
「その顔ってさ。…俺のこと、男として意識してるって思っていーの?」
「っ…」
耳元から全身にかけて、きた。
ぶわわっと、音が鳴ったんじゃないのって心配になるほど。
どうして男としてのわたしを見守ってくれるはずの頼くんが、男としてのわたしを壊そうとしてくるの。
「よ、よりくんっ」
「ん?」
「っ、……なんで……、あんな、こと、したの…?」
「…あんなことって?」
なんてズルい人なんだろう。
言わせてくる。
ぜったい分かってるはずなのに、言わせてくる。
頬っぺたにキスをされたんだ。
それも1回じゃなく2回も。
女の子に対して優しくするということは、あーいうことなのか。
頼くんにとって、あのときのわたしは女の子で、だから……キスなんて。