「え…、頼、おまえピッチャーできんのかよ…?」
「………」
なにを思っているのか、頼くんも目を開いていた。
琥珀くんを見つめて驚いていた。
そしてうなずいて、ふっと笑って。
「よし、それでいこう」
「えっ!まじかよ頼…!」
「琥珀の代わりは誰か入って」
キャッチャーマスクは一応は用意されていたが、わたしのクラスで使う人間はいなかったというのに、琥珀くんは装着していた。
顔を狙われたくない、というイケメン特有の何かかと思ったが、そうじゃないことはいずれ分かりますよわたし。
「でも琥珀、久しぶりだから下手かもよ俺。コントロール定まらなかったらごめん」
「…感覚ってわりと忘れないものらしいから」
「…それはお前もってことね」
嬉しそうにボールを握った頼くん。
琥珀くんに並んでマウンドに戻っていく寸前、わたしの頭にポンッと手を置いてきた。
「カンナ、俺は名前のごとく頼られるために生まれてきてるから。お前はもっと俺を頼っていーんだよ」
御堂 頼。
頭のなかに何度も何度も文字を書いた。
そんなわたしは、驚きの光景に唖然とするしかなかった。