「ここまで練習してきたしっ、まだ肩も痛くないしっ」
「カンナ」
「………っ、」
女だろ、お前は───と、頼くんの目は語っていた。
ズルいよ頼くん。
こういうときに女扱いなんか、ズルい。
だとしてもわたしには譲れない理由があるの。
「俺はっ、どーしてもやんなきゃなんだって……!!」
背中で語るでしょ、男は。
この学校は良いところだよって、楽しいよって、甘彩学院なんかに負けてないぞって。
わたしが投げきることで伝わるものがあるかもしれない。
「───僕がキャッチャーに回るよ」
そのとき、まったく予想もしていなかった人間が立ち上がった。
琥珀くんがキャッチャー…?
今はピッチャーの話をしてるんだよ、琥珀くん。
それに琥珀くんがキャッチャーって、練習でもそんなことしてなかったのに。
「だから頼はピッチャー、やって」
曲げる気は、ないらしい。
キャッチャーミットを手に取って、着々と準備を始めていた。
まって、琥珀くん。
きみが捕手で、頼くんが投手……?
ほら、わたしだけじゃなくてみんな困惑だよ。