『ならおれがそっちに行けばいいだけの話ってことだ』
『…え…?』
『それでさ、そのお父さんを一緒に超えればいいんでしょ』
『超える…?』
『そう!それなら怒られないだろ?』
そこから俺は野球をやめた。
グローブをギターに変えて、ボールをピックに変えた。
別に悲しくはなかったんだ。
とくに後悔もなかった。
だって、ベースが得意な琥珀と一緒にギターを弾いてると、ふたりでキャッチボールしてるみたいだったから。
そのあとだった。
唯一無二の歌声を持つと言われる志音が琥珀の前に現れたのは。
「琥珀、そういえば結局のところ志音は日本に一時帰国してきたの?」
「…予定が入ったらしくて。見送りだって」
「あー…、だからあの日、ホームルームに来たんだ」
新しいクラスメイトが転校してきた日。
本当であればあの日だった。
志音が日本に帰ってくるって言ってた日は。
またすぐアメリカに戻っちゃうんだろうけど、俺もできたら顔を会わせるつもりだった。
「もっと落ち込んでると思ってたよ俺」
「………」
そこまで、らしい。
なにか他に楽しいものでも見つけた?って思うほど。
でもおかしいのはさ、お前がその日以降ずっと朝から登校してるってこと。